poole.

四天王寺の目の前を通る国道25号線。そこから一本路地に入ると、ひときわ異彩を放つ雰囲気のバーがあります。

メインは世界各国から取り揃えた豊富な種類のジンですが、手作りのスイーツも楽しむことが出来るとあって、バーとしてもカフェとしても、多くの人に利用され愛されているお店です。

去る4月29日、オープン3周年を迎えられたということで、この度オーナーのカワナベさんにインタビュー。
『poole.』の常連で、「血液のほとんどが黒霧島」と言われるほど酒豪であるヨーコ付き添いのもと、カワナベさんの人生を変えたジンの話や、お店に対しての思いなどを伺ってきました。

ジンに目覚めた消防士時代
高校卒業後、15年ほど消防士として勤務されたカワナベさん。もともと無類のお酒好きだったそうですが、25歳の時にある運命的な出会いを果たし、そこから人生が大きく変わります。

-友人の結婚式で東京に行った時のことです。一緒に参列する友人と昼間から飲もうということになり、代々木八幡にある『FUGLEN』というカフェバーに行きました。そこで飲んだタンカレーのジントニックが、美味しすぎて感動したんです。それまで、僕にとってのジントニックって、ジャンカラの飲み放題メニューくらいのイメージしかなかった(笑)。でもその時、「入れ手によってこんなに変わるんだ」と衝撃を受けました。

そこからジンに取り憑かれていくカワナベさん。自宅にBARグッズを買い揃え、自分が作ったカクテルを友人に振る舞うなど、ジンの世界にのめり込んでいきます。
-大量生産されるジンだけではなく、地方の蒸溜所がこだわって作るクラフトジンの存在も知ることで、さらにのめり込みました。持ち前の収集癖が炸裂して、足の踏み場もないくらいジンが溢れかえるようになったので、DIYで棚を作るなど、もはやジン中心の生活を送っていました。ただのオタクですね(笑)。
コロナによるステイホームで家飲みが増え、友人に振る舞っていると、「そんなに好きなんやったら、お店やったらええやん」と周りから言われるようになったんです。

イギリスとニューヨークの旅を経て
周囲の後押しもあり、開業を決意したカワナベさんは、消防士を退職。同級生から教えてもらった渋井不動産で、今の物件を紹介してもらいます。
-「店をやる」とは思い立ったものの、それまで飲食経験が皆無だった僕は、どこかバーで働いて3年くらい下積みしてから開業するつもりでした。ですが、辞めて1ヶ月くらいの時、同級生が教えてくれた渋井不動産さんの、1発目の内見で見つけたこのハコが刺さりました。自分のイメージ通り、スケルトンの倉庫って感じが最高だったんです。思いのほか早く見つかってしまったのですが、勢いで契約をしました。

当初のビジョンよりも、だいぶ早く動き出した店づくり。しかし、契約してからすぐは動き出せず、1ヶ月ほど空家賃を払ってしまうことに。その理由とは。
-イギリスとニューヨークに旅行が決まってたんです。すでに航空券を取ってたから行くしかないなと。普通は常識で考えたら、契約か旅行の予定、どちらかをずらすじゃないですか。でも、自分にはあまりに知識や経験がなさすぎて、空家賃が発生することに対しても、「いいっすよ」ぐらいの感じでした(笑)。

BAR文化が根付いているニューヨークを味わえたのもよかったですが、やはり、ジン発祥の国イギリスに行けてよかった。中学生の頃、『世界の車窓から』で観た“プール”という港町にずっと行ってみたくて、ようやく念願が叶いました。感動をそのまま、お店の名前にしちゃいました。
開業することが決まってからの旅行だったので、結果的に研修旅行みたいになりました。現地で買った雑貨などは、今も店内に置いています。空家賃が無駄ではなかったですね(笑)。

知らないからこそ挑戦できた
2022年の4月に『poole.』をオープン。当初は自身の経験の無さから苦労することもあったそうです。
-毎日が手探りで、今考えたらめちゃくちゃだったと思います(笑)。なにせ接客経験もないので、お金のいただき方すらわからなかった。ゴミの業者はどうするんだとか、開店してからもわからないことだらけ。でも、毎日寝る間も惜しんで必死でやりました。最初は1人での運営で、当時中津に住んでいたことから、ギリギリまで店にいて車中泊なんかしょっちゅうでしたね。

物件の魅力を優先して決められたことから、縁もゆかりもない四天王寺というエリアでの店舗運営。「知らなかったからこそ出来た」とカワナベさんは語ります。
-知り合いの飲食界隈の人たちによく言われます。「よくこんな場所でやったな」と。近隣住民の方にも「この辺でやってもあかんで」と心配されましたからね(笑)。それくらいこの辺りって飲食店がないんです。最寄り駅も遠くて不便だし。
だけど、近くのマンションに住む若いファミリーの方々は、家の近くにバーが出来たことを喜んでくださりました。もともと地元密着型のお店を目指していたので、それは嬉しかったです。知識がないからこそ、この場所でチャレンジできたんだと思います。自分が次お店を出す時は、絶対に駅近にしますけどね(笑)。

「やっと“飲食人”になれた」
オープンして1年が経った頃から、カフェとしての営業も始められた『poole.』。その影響で集客も年々順調になったそうですが、それには仲間の協力が大きいと語ります。
-最初はゆっくり飲めるバーをイメージしていたので、夜しか営業していませんでした。でも、ここの内装って昼の明るい時間帯も雰囲気が良いんですよね。カフェ営業を始めた時くらいかな、現在スイーツを担当している彼女が声をかけてくれました。「私ならもっと美味しいスイーツが作れます」って。

-イヅミさん
そんな言い方してませんよ(笑)!
当時は会社員でしたが、以前のパティシエ経験を活かして、力になれたらなと思ったんです。

-彼女の作るスイーツのおかげで、SNSにも火がつきました。お酒だけではなく、スイーツ好きのお客様も増えて、良い意味で3年前のイメージとは違うお店になったと思います。彼女は、お店が好調になった立役者です。

最初は1人で運営していたお店ですが、スタッフや仲間、そして家族の存在によって、経営に対する意識が変わったそうです。
-1人でやってる時は、売り上げとか全く気にせず「生きていけたらそれでええわ」くらいに考えてました。
しかし、雇っているスタッフも増え、結婚して子供も産まれました。守らないといけない存在が出来てから、本当の意味で「やっと飲食人になった」感覚になりました。自分が立ち上げたこのお店で、しっかりと売り上げを上げなくてはいけないーー。その意識で飲食店経営に臨まなくてはと思うようになりました。

ジンと出会い、ジンが出会わせる
今後の展望として、同じ天王寺エリアで地域の常連さん向けに2店舗目を出したいと考えられているそうですが、そんなカワナベさんにとって、人生を変えてくれた“ジン”とは一体何なのか、最後に訊きました。
-2店舗目は、オープン当時からお世話になった地元の常連さんに還元できるような、ゆっくりできるお店にしたいですね。
僕にとってジンとは、ですか(笑)。「出会い」ですかね。
お客様にとって、ジンに出会うことで新たな世界に触れられますし、また僕自身はジンを通して、お客様と、スタッフと、そしてこのお店と出会うことができました。ジンは全ての出会いを運んでくれるものだと思っています。これからもこの場所で、いろんな「出会い」に出会えたらなと思っています。
・・・なんか、恥ずいっすね(笑)。

poole.
【住所】大阪市天王寺区大道一丁目2-29
【営業時間】Cafe 13:00-20:00
Bar 20:00-26:00
【定休日】不定休