SOHO可の42㎡

今日は、眠っていた感覚が呼び覚まされる物件を紹介する。中央区は堺筋本町にある築古ビル。当ビルの3階フロアを某設計事務所がリノベーションを手がけたのだが、それが攻めすぎてて渋い。
このデストロイ感を伝えたいのだが、最近のカメラは優秀すぎて、だいぶ明るく補正されてしまった。実際は黒猫や妖怪なんかが潜んでいそうなディープで不気味な気配が漂っている。暗い。とにかく暗いのだ。
かつて堀江にあったD&DEPARMENTのディナータイムを思い出してしまった。光量を極限まで落としたレストランの店内は、向き合っている相手の表情も読み取れないほどで、それでいて物凄く会話に集中でき、かなり濃密な時間を過ごせていたのを今でもはっきり覚えている。

このマンション共用部と対峙して、「世の中は明るすぎる、見えすぎている」ことに気付かされた。そのくせ大事なものは何ひとつ見えていない、なんて哲学的なことを考えるに至ってしまった。
信じてもらえないだろうが、訪れたのは真っ昼間だ。しかも雲ひとつない快晴。疑っているなら上階の同じ画角を見ていただきたい。

ほら、嘘じゃないだろう。

疑いが晴れたところで、目的の3階に戻って部屋を案内する。

早速戸惑いの、NO土間スペース。「あっえっ…」と、咄嗟に足を上げてしまうことだろう。部屋と同じフローリングが1歩目から訪れるので、日本の風習に染まりきった私たちは、バツの悪さに見舞われる。しかし、1週間もしたら玄関マットを敷いて、「海外生活長かったんでオレ」なんてうそぶきながら順応していくはずだ。ただ、雨の日は「うちの玄関、土間ないんだった」とオレンジの扉を開ける時に気付かされるだろう。
そう。「世の中は綺麗すぎる」
整えられた20帖

実は10年ほど前にもこの部屋を記事にしたことがあり、その頃は無垢床だった。今回一縷の望みを持って訪れたが、ご覧の通り、クリーンな印象のフローリングに変わっていた。参考にかつての室内も見せておく。

床でここまで印象が変わる。引き合いに出すわけではないが、マイケル・ジャクソンの肌色が黒い頃と白い頃とで見た目の差は間違いなくあった。けれど、彼自身の才能や存在自体に大きな差があっただろうか。マイケルはマイケルだ。渋かっこいい物件がちょい渋物件になった程度だ。いや、でもやっぱり無垢の方がこの部屋はバチっとキマるよな〜なんてのは、個人の感想である。共用部からのこのギャップがたまらん、という方もいることだろう。
そして、右手前にはトイレ。



渋さの名残りある水回りたち。兵役から帰還した青年が、市内で部屋を借りるとしたら、きっとこんな部屋なんだろうなぁ、なんて現実離れした妄想が湧く。

20帖のビッグワンルームという広さを誇りながらも、頼もしいサイズ感のウォーク・イン・クローゼットが備わっている。

室内はL字になっていて、南向きで日当たりも良好。キッチンも、ガス2口グリル付き。調味料棚も付いているので、しっかり自炊もできる。目玉焼きにスクランブルエッグに、オムレツに。卵料理がよく似合うキッチンだ。

そして、振り返った先に見えるこのビジュアルがたまらない。無骨な印象を与えるむき出しの天井にスポットライト。
床は明るいフローリングになっても、ヴィンテージのラグとパイプ椅子なんかをレイアウトすれば、ブルックリンスタイルに。設計者は不本意かもしれないが、床のトーンに合わせて、IDEEっぽくしちゃっても余裕でハマる。

いかがだっただろうか。所在フロアの共用部分は、ライブハウスっぽいアングラな空気が漂っていて、タトゥースタジオやシーシャバー、いかがわしい動画編集の制作会社なんかが思い起こされたが、室内は一転、広くて、キッチン設備も収納も優秀で、風呂キャン界隈にはかなり快適に過ごせるビッグワンルームだ。
最寄りは、大阪メトロ堺筋線・中央線『堺筋本町駅』徒歩6分。谷町線『谷町四丁目駅』も徒歩8分ほどで、2駅3路線のアクセス。

諸費用は、敷金ゼロ・礼金2ヶ月の賃料共益費込み月額9.9万円。事務所・SOHO利用も可能(条件変更あり)。この広さで立地も良くて、ひとクセあって10万切るのは喜ばしい限り。
以前は髭面のあなたにおすすめしたい一室だったが、髭面もツルスベ肌もオールマイティーに受け入れられる内装となったビッグワンで、住まいもしくは事務所を構えるのはどうだろう。
以上、渋井不動産でした。
Photo by : KYON