ある日突然電話してきて「ええビル作ってるから見においで」なんて言葉で俺を弄ぶお前が好き。
そんな魅力的なワードに釣られていった俺を、本当に裏切らないお前が好き。連投長屋造りのRCビルなんて絶滅危惧種に手を出しちゃうお前が好き。スゲェよほんと。
呼ばれてやってきたのは大阪市中央区。長堀通り沿いを玉造方面に進むと出会う、こんな渋いRC造3階建てを今回は俺が好きなアイツが作り直してしまった。
俗に言うリノベージョンビルディングなのだが、他のソレとは比較したくないほどセンスがよかった。本当に。
扉を抜けてすぐに出会ったこの壁にハッとした。お分かりだろうか。
コンクリ剥き出しの躯体ということは誰の目にも明らかだが、気にしてほしいのはその筋・紋様。
まだRC造の建築物が黎明期だった時期は、コンクリの形成が鉄板ではなく木板で形成していた。木の枠をハメてコンクリを流す。ジッと乾くのを待ち、恐る恐る板を外してみる。
すると稀に写真のように木目の紋様がコンクリに残るのである。なんとも美しい。ウン十年前の技術が見えるハコ。
そんなディティールを削除せずにきちんと魅せるあたりが俺を魅了する。
南向きの採光口から飛び込むサンシャインさえ、ここならクールに仕上がる。
この空間だけでも、お前が俺に投げかける情報量が多すぎてパンクしそうだ。
整理していこう。
躯体本来が持つダーティーな印象にプラスされた清潔感と、使い勝手。このエリアをあなたがどう使うかわからないが、何かと生きてくるディティールだと思う。
まさかアイツはそこまで計算していたのか?
いや、そんなにあいつは器用じゃない。
このフロア、その全面を走るのは杉板の無垢材、もちろん天然物だ。安価な無垢材とは勝負にならないほど強く、優しい。
残る杉の木特有の匂い、その採算度外視の設計に俺は固唾を飲む。
この類はだいたい昭和30年代のRC造でしか確認できない貴重なものだし、そんな時代にRC造でビルを建てた当時のオーナーの財力もあっぱれ。
そして現代のリノベーションというテクニックで魅力的に昇華させるお前が、俺は好き。
玄関を抜けて左右に振り分けられるタイプだから使い勝手は抜群なんだ。今紹介した方をショールームや店舗にして、今から紹介する方を事務スペースやストックにしてもいい。
とにかく、こんな物件を探してたあなたはシミュレーションしながら読み進めてくれ。
造作された扉につけられた、この取手。このビルのどこかで使われていたこの渋いガジェットを、この場所に移設したそうだ。
握るとわかる、新品とは違う質感と風格。感じるヴィンテージ。
「あぁ、またしてもあいつにやられちまった…。」
そう俺が落胆するのも、当たり前のことだろう。そしてこの物件を内覧するあなたもおそらくだが前向きに落ち込むと思う。
そして、こんな空間を借りるチャンスがあるあなたを羨ましく思う。
この物件を作ったアイツには悪いが、正直紹介したくない気持ちでいっぱいだった。アイツとのこの思い出を独占していたい。
でも俺は渋井不動産。大阪に眠る渋い物件をどこよりも丁寧に紹介する使命を持って生きている。そしてその物件を作った人の想いを代弁できるスポークスマンでありたい。
この物件、賃料は共益費込10万5千円(別途消費税)。
いかにアイツが採算度外視で愛情を注いだか、是非その目で確かめて欲しい。そしてセンスよくこの場所を使ってくれ。そしてその愛情を汲んでこの場所を使ってくれ。
今のところ業種は応相談。
美容室でもアイラッシュサロンでも、洋服屋さんでも本屋さんでも、植木屋さんでも、あいつが求める条件はただ一つだけ。
そう、センスだ。
お問い合わせは渋井不動産まで。
以上。