帰ってきた鉄パイプ
はじめに
この度、2018年3月に掲載された「俺もお前も、鉄パイプ。」に4年振りの空室が発生しました。改めて当該記事を読むとなかなか面白かったので、敬意を込めてアンサーブログを執筆した次第です。物件情報さっぱり分からんやん、などと思ったからではありません。決してそんなんじゃありません。
『天神橋六丁目駅』から徒歩5分。ここはかつて、アタシの愛した男が住んでいたマンション。
初めて内覧でこの物件を訪れた4年前、アイツはひと目で心を奪われていた。圧巻のエントランスは、鉄パイプひとつで相手をなぎ倒していた自分にピッタリの籠城だ、なんて目を輝かせて。
あの頃は、そんなアイツも無邪気で可愛いとさえ思った。今のアタシなら「素手で戦えよ」って一蹴してるだろう。まさにあの頃は盲目だった。こんなにもスケスケなエントランスなのに、何も見えてなかったんだ。
哀愁に浸るアタシを構いもせず、あっという間にエレベーターは最上階へたどり着く。
鉄パイプ、多くない?
ちょっと待って、こんな多かったっけ?むしろ増えてない?知らないうちに4人目が産まれてた地元の友達んトコくらい増えてるんですけど。
まあ思い返すと、4年前のアイツも「まだ工事中ですか?」って訊いてた気がする。「2007年に竣工してます」ってピシャリといかれてたっけ。
鉄パイプの先に待つ部屋
玄関を開けると、開き戸がついたシューズボックスが登場。さすがにここは鉄パイプじゃないんだ、なんて思った私は、いつから鉄パイプを欲する女になってしまったんだろう。
しかし、求めていたものはアッサリと見つかった。50㎡のメゾネットである当物件は、上階へ伸びる階段に鉄パイプが通っていたんだ。
パイプ越しに見る採光も最高。カーペットに反射する陽の光は、南向きならではの力強さすら感じる。
ふとアイツに目をやると、部屋の中を下から上までじっくりと見渡していた。なにやら小さくガッツポーズしたかと思えば、「スカート」と呟き、良からぬ想像を膨らませているように見えた。
もう一度、部屋を見渡してみよう。15.5帖のLDKは、アイツが住んでいた頃よりもうんと広く感じる。
鉄パイプだけに飽き足らず、狂ったようにアイアン家具が集められていたこの部屋も、今ではすっかりもぬけの殻となってしまったんだなあ。
自炊をしないアイツに代わり、キッチンに立つのは専らアタシだった。
「お前の料理は実家のおふくろを思い出すよ」そう言って白飯とかき込んでいた麻婆豆腐は、何を隠そうクックドゥで作ってたんだ。でももう時効だよね。
胸につっかえてたことも言えたし、上へ行こうかな。
視認性抜群の洋室
階段の踊り場には、この部屋唯一の収納が設けられている。
と言っても上段はアイツがすっぽり入るくらいの高さがあるし、そこそこの物量が収まっていたと思う。「俺が片付けるまで絶対開けるな」って言われてたのも懐かしい。鶴の恩返しかよ。
そうそう、上階は引き回しのバルコニーにぐるりと囲まれてるんだよね。
L字型になった上階は15.5帖の広さ。バルコニーに接する面はほぼ窓になってて、視認性は抜群。というか丸見え。所ジョージとビートたけしが揃えば、日テレのバラエティが始まると思う。
4年前のアイツは、ここを通路だと思ったって。確かに、どこにベッドを置いてもしっくりは来ない。一応メタリックなブラインドもついてるけどね。
トイレは下階、洗面台とお風呂は上階に。スケスケな風呂のドアこそ、デザイナーズの醍醐味らしい。そんなことよりも、追い焚きがついてる方がテンション上がるんですけど。
生きてる人間が一番怖い
実はこの物件、裏手に斉場と葬儀会館があるのね。でもアイツは、結局一番おっかないのは生身の人間だって言って、アタシも故人も包み込んでくれた。ビッグラブ。
こんな唯一無二の部屋、アイツと同じように代替えなんてきかない。もしこの部屋にピンときた方は、ためらわず渋井不動産までお問い合わせいただければと思う。逃して後悔する前に。するりと逃げてしまわぬように。
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。なんならアイツが結局誰なのかも分かっていません。
【良かった点】
◎1駅3路線のアクセス
◎他にはないデザイナーズ性
◎日当たり抜群の引き回しバル
【気になった点】
△収納力
△物件のポジション