この日、渋井不動産は
探しものを探しに摩耶山へ。
摩耶山に来ていた。
「探しものを見つける」ために、事務所から1時間かけて、この見晴らしの良い摩耶山を選んだ。
遠くを見て探すもの、
劣悪な視界で探すもの、
周囲のカップルのイチャつき具合に圧倒されるもの、
何も考えていないもの、
そもそも見ないもの、
溶け込むもの、
全員が思いつくままの方法で探しものを探していた。
しかし、各々の懸命な捜索もむなしく、見つかるのはイチャつくカップルばかり。
時間の経過とともに疲れが見え始め、追い打ちをかけるように摩耶の大自然が渋井を苦しめていった。
夏とは言え徐々に肌寒くなる山頂の気温
体内を蝕むアルコール
様々な猛威がメンバーを襲い、体力は徐々に削られていった。
「本当に見つかるのだろうか・・」、メンバーの脳裏をよぎる不安。
ーリサ
「大丈夫・・きっと見つかるはず。きっと。」
ーリサ
「きっと・・・カット。」
カツ カツ カツ
ー中年の男
「・・・ん?」
ー中年の男
(何か・・視線を感じる。それも結構な人数の。)
ー中年の男
(おや、これは・・・)
ー中年の男
(渋井不動産のステッカーだ・・。知っているぞ。大阪でそれなりに名の知れた不動産屋だ。なぜ神戸のこんなところに・・・。)
ー中年の男
「む」
ー中年の男
(こんなところにも・・・。渋井不動産は豚まんも提供しているのか。しかも手作り。)
ー中年の男
(ここにも・・・)
ー中年の男
(なんだ・・、今日はやけに渋井不動産のステッカーを目にする。俺の周りでいったい何が起こっているというんだ。)
ー中年の男
(しかも、ずっと視線を感じる。いつもこうしている間に感じる視線とはまた違う、遠くから見つめられているような視線だ。)
チラッ
(・・・もしかして・・・)
ー中年の男
「あっ!!」
ー中年の男
(渋井不動産・・募集・・)
ー中年の男
(・・・なるほど。やはり、そういうことか。)
ピ ポ パ
Prrr Prrr
ー留守電
「渋井不動産です。ただいま営業時間外となっております。御用の方は・・・ピーッ」
ーチーフ
「もしもし、募集看板を見てご連絡させていただきました、入社希望の『チーフ』です。そこそこのキャリアがあります。御社には私が必要かと思いましたので、10月より働かせていただきます。よろしくお願いいたします。それでは。」
こうして、渋井不動産が探していた『そこそこキャリアのある人材』が無事見つかった。
それでは最後に、「チーフ」と名乗るこの中年男をご紹介しよう。
メンバー紹介
【チーフ】
神戸エリアで新築分譲マンションを売っており、そこそこのポストについていた怪物松坂似の男。自身の力を最大限に活かせる場所を探していたところ、渋井不動産で「最年長」のポストを見つけ転職(FA)を決意。投球フォームは四十肩によるスリークォーターで、土地や分譲マンションの売買を得意とする。
本日より渋井不動産にチーフが加入いたしましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。