京橋物語
「ただいま」
そう言って室内に入ってみるが、返事はない。一人暮らしなのだから返事があっては困るのだが、帰宅時のルーティーンみたいなものだ。俺の名前は京橋住男(きょうばし すみお)、地元では「住男dism(すみダンディズム)」というあだ名が付いた。その名の通り京橋に住んでいるのだが、駅までの距離は鶴見緑地線京橋駅まで徒歩1分。這いつくばっても10分というグッドリッチな場所だ。
近所のローソンでバイトリーダーを任されている俺。商品の陳列の素早さで店長に一目置かれて以来、時給が50円も上がった。昇給が決まったその日は、このミニキッチンでステーキを豪快に焼いたことを今でも覚えている。
下っ端アルバイターからは尊敬の意味も込めて「陳列エクスプレス」と呼ばれている。
素早い陳列のコツは「無駄をなくす」こと。
陳列スピードを追い求める俺は、普段の生活から無駄を無くすようにしている。食事はもっぱらこのカウンターで済まし、洗い物が出ないように食器は全て破壊した。メニューは毎日コンビニで出る廃棄食材。バイトリーダーともなると、弁当が廃棄になるか俺行きになるか操作できるのだ。
そしてここが俺の6.5帖のエデン。
艶のあるフローリングにエアコン、その点はタワーマンションと同じだ。一人暮らしならこれぐらいの広さで十分。正面に見える窓からはバルコニーに繋がっているのだが、じゃあ右手の窓はどこに繋がっていると思う?
無駄に広いバルコニー
答えはこのビッグなバルコニーだ。
無駄嫌いな俺だが、この無駄は良い。本当は後輩が俺を尊敬していないことも知っているが、ここへ来ればそんなことがどうでもよくなる。俺だけが味わえる特別な空間、ヴェルタースオリジナルより特別な存在、それがこの無駄に広いバルコニーなのだ。
※バイトリーダーが長く話していましたが、要するにこの部屋が募集開始します。
賃料は月額7.2万円ちょい、礼金は10万円です。
京橋までグッドアクセスな人気のビッグバルコニー部屋、もうすぐGW休暇に入ってしまう渋井ですが、お問い合わせお待ちしております。
(物件番号:62912)