プロローグ
なぁハニー、俺たちそろそろ付き合って2年になるよな。出会った頃の俺には住む家もなく、まともなメシも食わずにただ夢だけを食って生きていた。そんなどうしようもない持たざる者の俺に、お前は優しい手を差し伸べてくれた。お前が住む六畳一間の部屋に転がり込む俺。二人で暮らすには窮屈だったが、「狭いから良いんだよ」と快く受け入れてくれたお前。嬉しい気持ちの一方で、己の不甲斐なさが憎らしかったぜ。
少しだけ、ほんの少しだけでも今より良い暮らしをさせてやりたい。その一心で俺は走り回った。そこで、二人で暮らすのにちょうど良い部屋を見つけてきたんだ。
さぁ、二人で新しい暮らしを始めよう。

場所は天王寺区餌差町。鶴見緑地線の玉造から歩いて7分ってとこだな。
いいか?もしナンパ野郎に「どこに住んでるの?」って聞かれても餌差町って言っちゃダメだぞ。丁番を持たない小さな地域だからすぐに家を特定されちまうかもしれない。いかんせん物騒な時代だしオートロックも無いからよ。

エントランスを抜けてこのちょっとした階段の奥にエレベーター。目当ての部屋は3階。早速行ってみようぜ。

ここだよここ。なかなか年季の入った玄関だけど角部屋ってのがポイント高いだろ?インターホンにはカメラも付いてるし必要十分さ。
14帖LDK

玄関を開けると早速リビング。サイズは14帖もあるからデカめのソファも置けるし、四人掛けのダイニングテーブルなんかを置いても全然余裕。
レンガ調のクロスが貼られた柱もチャーミング。気持ちばかりのブルックリンスタイルを味わえるぞ。どうせならこれを活かした家具選びをしたいよな。

こっちからも見てくれ。暮らしのイメージが容易にできるだろ?クローゼットも大容量だから二人分の荷物ぐらいなら楽ラク飲み込んでくれる。
ちなみにエアコンも一応ある。だけど残置物って扱いだから、もし壊れたら修理費は実費。大切に使わないとな。

キッチンはコンロ無し。すなわちコンロを選ぶ楽しみが残されてるってことだな。キッチン横の出窓にはお前の好きな花やぬいぐるみでも飾ってくれ。窓から見えるのは野球場。どっちのチームが勝つか予想して負けた方が晩ごはんを奢るなんて日常も悪くないな。
ってことでリビングはこんな感じ。次はふたつの洋室を見ていこう。何を隠そうこの部屋、2LDKもあるんだぜ?喧嘩してギスギスしても二人のパーソナルスペースは守られるってこと。あまり考えたくないけど、これも仲良く同棲生活を送るのに結構重要なポイントだと思うんだ。
洋室①

リビング奥の洋室①は4帖。小ぶりだから物置きか仕事部屋にするぐらしか使い道が思い浮かばないな。だけどいつか俺たちにベイビーができた時に活躍してくれそうだろ?名前、考えておかなくちゃだな。
あとは助けた鶴が急に訪ねてきたらここに閉じ込めておけば良い。ここを貸したところで俺たちの生活には何ら支障はなさそうだ。
洋室②

で、ここが洋室②。6帖だから寝室にするのに丁度良い。玄関入ってすぐの部屋だから、疲れて帰ってきた日は風呂キャンしてベッドにダイブできるぞ。贅沢を言うならここにも収納が欲しかったけど無いものは仕方ない。
ここにエアコンは無いから夏までには何とかしたいところだな。まぁ汗だくの二人も悪くないけどな、つって。
※風呂キャン:風呂キャンセルの略。女子の間で流行りの言葉らしい。女子のリアルが垣間見えて良い。
水回り

次は水回り。お前もこだわりたいポイントだと思う。洗面台は必要最小限スペックだけど、あるのと無いのとでは全然違う。蛇口が伸びるタイプのアレではないから、頭だけ洗うというプチ風呂キャンは難しい。

浴室はザ・量産型でこれまた必要最小限スペック。シャワーの温度をセルフでコントロールしなくちゃいけないタイプだな。赤だけを捻るとマジで火傷するから気を付けるんだぞ。

そしてトイレだけ謎にオシャレ心を出してきている。さぞかしオーナーか前入居者がトイレの神様を信じるタイプなんだろう。まぁ便器そのものはウォシュレット無しの必要最小限スペック。出せて流せればそれで良いって感じ。シンプルイズベストってことにしておこう。
気になる賃料は

ここまで見てもらったけどどうだろう。
めちゃめちゃ広いわけでもないし、何かコレと言った特徴があるわけでもないけど、42㎡の2LDKがなんと共益費込の8万円だ。今お前が毎月払っている家賃が確か6万だよな?つまり俺があと2万払うだけでここに住めるってこと。
敷金はゼロだけど礼金がちょいと強気の18.4万。俺も一緒に頑張るからさ。だから今パチンコで勝つことを真剣に考えているんだ。
さぁ、二人で新しい暮らしを始めよう。
Photo by : MIU