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2017年10月某日、シブイは中央区鎗屋町のマンションへ来ていた。

入り口のオートロックを開け、エレベータ前で足が止まる。

イス・・・!!それも木製の二人掛け・・。

ざわ・・ざわ・・

買い物帰りに腰をかけるという甘え。圧倒的甘え。

そして姿見まで置かれている。

服装の乱れ、身だしなみのチェック・・エントランスで色気づくという愚行。

玄関前で、ある異変に気付く。インターホン下の違和感。

「NEWSPAPER」

ざわ・・ざわ・・

洋語である。古来、日本には存在しなかったこの言語が、二十世紀に入り瞬く間に世界中へ浸透。日本語にはないそのファッション性ゆえの因果。原産地とはかけ離れた、この島国の片隅まで支配の手が伸びている。

侵蝕っ・・それも驚異的なスピードでっ・・!

「木」

部屋に入ると、否応なしに押し付けられるその気配。

ざわ・・ざわ・・

温もり、安心感、その快楽を自宅へ落とし込んだデザインは、来客を脅威のアットホーム感で抱擁。

母・・、存在的母っ・・!

来客の視線を奪う窓、そして棚。

記念写真、人形、カギ。その全てをアンティークというベールで味付けする。

本来は換気を生業とする窓も、ここでは二の次。デザインのために生まれ、開かれることのない木偶の坊。

廊下・・・ただのっ・・・!
もがき歩いた廊下とこのリビング。その大きさ12帖に及ぶ。

ほどほど・・圧倒的ほどほど・・!

反論の余地すら残さない采配、狡猾っ・・!

状況は一変。

その突き刺さるような角度に、一同唖然。

夢、まやかし、その全てを疑うも、振り戻される現実。

ざわ・・ざわ・・

ガスキッチン・・それも二口のっ・・!

和・洋・中、全ての調理を手中に収めんとするこの設備。

しかし、未だ状況は泥沼っ・・

もがけばもがくほどハマる、人食い沼っ・・。

狭小っ・・!前人未到の狭小さっ・・!

ざわ・・ざわ・・

ひとたび左手で鍋を振れば、肘関節が絶命しかねない、地獄のクッキング。

左肘の耐久マラソンが、料理という名のゴールテープめがけ、今スタートする。

バルコニーは北。

一人暮らし・・十分な容量と踏んだ矢先の落とし穴。盲点。

「家のファッション性」

気付く。オシャレな人は服が多いはず・・。この家に住む人はきっと・・オシャレ・・段違いの・・。

ざわ・・ざわ・・

足りないっ、このままでは。服を干すスペースがっ!

思案を巡らせ、あたりを見回すと、一筋の光が。

『干せるっ・・!!それも大量にっっ!!』

僥倖、幸運。

「電線に干す」という悪魔的発想。凡人では到底思いつくことのない答え。

シブイ、起死回生。泥沼脱出。

『物件紹介列伝シブイ。〜鎗屋町、暗黒の左肘編〜』は以上です。

中央区鎗屋町のとがったワンルーム。アンティーク家具が似合いそうなこのお部屋は、共益費込6.5万円で募集開始です。

*絶対に、洗濯物を電線に干さないでください。

最新の空室情報やお問合わせは、渋井不動産まで。

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